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饒舌な友人
その男は丸眼鏡で色白、読書好きで博識。
割に身だしなみには気を使っていて、ずぼらな私よりもオシャレなんじゃないかと思うこともあるが、相変わらず目が悪いんだか考え事でもしているのか、よく躓くし、姿勢もよくないので不健康に見える。
焦点が定まらないその動きや色白な顔が相まって浮世離れしてみえることがある。
「ずいぶんと急いで家を出てきたのか?」
「急いで?そんなことはないけど、困っているんだ」
「そうか、いずれにせよ余裕のない状況いうことかな。その靴下の汚れに気付いていないと見える」
青と白のボーダの靴下に茶色い粉の汚れが着いていた。
「あぁこれか。確かに気付いていなかったよ。これも事件のあった部屋の玄関で着いたんだと思う。ずいぶんと散らかっていたし、ココアの粉がどうだとか警察が話していたな」
――続けて私は鍵が落ちてきたことから刑事の聴取まで一通りを説明した。
「で、君はこの事件の犯人は誰だと思う?」
私が聞きたかったのだが、友人の方から先に質問してきた。
「私は同居していた女性が犯人だと思う。犯行後に一度部屋を出て何食わぬ顔で戻ってきて驚いたという演技をしたんじゃないかな」
「同棲していた女性は犯人じゃない。アリバイがあって、きっと駅やコンビニの防犯カメラにも映っている。警察が調べればすぐわかるだろう。ところで302号室に誰もいないのは確認したのか?」
「警察が空き部屋なのを確認してたよ。最近、空き部屋を勝手に使う犯罪があるってニュースにもなってたし」
友人はうんうんと頷いて納得し推理の続きを話し出した。
「保険のおばさんの場合、じいさんの部屋に行く前に犯行が可能に思えるが鍵をちょうどよく君が来たところへ落とすことができない。鍵のためにじいさんの部屋で何かやり始めたら不審がられるし、じいさんが覚えているだろう。」
「ははーん、じゃあ、あのじいさんか?」
「それも考えたが・・・そのじいさんが若い男を持ち上げて吊るし上げることができるかな?これは他の2人の女性にもいえることだ。だから警察が君を疑うのももっともなことだ」
「待て待て、私が犯人だっていうのか」
友人は笑った。
「そうじゃない。君が犯人じゃないっていうんだ。僕は全くもって君を疑っていないよ。第一、証拠がない。」
どういうことかわかるか?という自信有りげな顔でこちらの反応を待っている。
「やっぱり自殺だってことか」
「絞殺の跡があったと言ったじゃないか」
うーん。
「そうか、あそこにいたんじゃない全く別の人間が犯人と疑っているのか!」
「それとも少し違うな」
はて、どういうことか。
まさか悪霊や怨念による犯行とでもいいたいのか。探偵はほくそ笑んでいる。
「そこにもう一人、人間がいたんだ」
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