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酷い出会い
「どうも、初めまして」
由依が不似合いなこの山間部の街に現れたのは夏休み明けの始業式だった。
山地に開けた小さな街。その中心地に残る城下町が、この地がかつての要衝だったことを物語る。
「親は転勤族です」
合併で名前を変えた会社の支店長の娘。
「新宿で育ちました」
明らかな異質感にみんなは顔をしかめた。
原色の絵の具のような夏の空がまだ残っていた。
高校2年生にとって夏はクラブの季節。
放課後、サポーターをとりに教室へ戻ったら、誰かが携帯で話をしていた。
「そうよ、他には何にもないわ。どっち向いても山ばかり」
向こうを向いて机に腰かけ、片足であぐらをかいていたのは由依だった。
(行儀の悪い女だな…)
絶対に仲良くなることはないと思った。
日の光で茶色っぽい髪が更に茶色く見えている。
さっさと出ようとした時、机の脚に引っかかった。
ガタン。
「えっ?」
しまった。
「ちょっと、何? 話、聞いてたの?」
携帯を耳から外し、文句を言う。色白で睫毛が濃いせいか、化粧してるように見える顔はこの辺りの子にはない顔立ちだった。
「聞こえたもん、しょうがないだろ。だいたい教室で携帯かけてる方が悪いや」
そう言って後ろも見ずに教室から出る。
「ちょっと、待ちなさいよ!」
追いかけてこられて廊下で言い合いになる。
どうしようもなく酷い出会い。
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