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怖がり
「まぁ、蛍光灯って突然切れるもんだから」
などと言いつつ、進もうとすると、何かが袖を引っ張った。
「わっ」
と、後ろを見ると…、由依が袖を持っていた。
「びっくりさせんなよ」
と言うと、
「そんなに驚かないでよ…」
と言う。
手前の教室を2つ過ぎて、自分たちの教室の前に来た。廊下は暗いまま。教室の照明スイッチは奥の入り口扉の側にある。
「小早川くん、スイッチ点けて来て」
「あぁ、わかった」
と歩こうとすると、
「やっぱり私も行く」
と言って、今度は腕を掴む。それも結構な力で。
顔を見るとかなり強張っている。
……ふと聞いてみた。
「ちょっと聞くけど、怖がりなの?」
由依は黙って頷いた。
「ぷっ」
思わず、空いてる方の手で口を覆った。
その顔つきがいつもと違い、まるで小学生のようだったので。
「笑わないでよ…」
と言うその声も、なんとも心細げでウケてしまった。
パーフェクトな由依の弱点を見つけたようで、なんだか急にツッコミたくなった。
「普段、あんなにイケてるのにね」
「えっ、イケてる? まぁ、それは置いといて、ちょっと早く行こ」
いいこと知った、と思いながら、廊下を歩き、教室の前扉を開けた。
後ろのドアのガラスから僅かに光が差し込む教室は、昼間とはまるで別物のような様相で、数時間前までここで勉強していたとは思えない程怖ろし気だった。
スイッチを点ける。
次々と天井の蛍光灯が灯り、教室は明るくなった。だが、やはり人のいない夜の教室は不気味には違いない。
「あっ、やっぱり」
と由依が言った。
見ると、窓に大きく貼っていたモザイクとその台紙が、半分剥がれ落ちてた。
「このままだと明日の朝には皺になっちゃう」
そりゃそうだ。
由依はすぐさま先生の机から養生テープをとり、窓の方に向かう。
「ねえ、私が押さえてるから、小早川くん、そのテープでしっかり貼ってよ」
「わかった」
養生テープをビビッと引っ張り出す音が教室に響く。それを手で切り、貼り付けていった。
真面目な顔して、由依はモザイクを押さえてる。
(そりゃそうか。自分のデザインだし、ここまでみんなを引っ張ってきたんだからな)
と思いつつ、顔を見てると……、
「また私のこと、見てたでしょ」
と言う。
「いや、見てない、見てない」
と否定した。
「うそ、今度こそ視線感じたもん」
「いや、見たのは、その…、真面目な顔してるな、と思ってただけで」
「ほんとぉ? なんか違う種類の視線を感じたけど…」
「単純にそうなの」
と言うと、ちょっと顔を近づけ、
「正直に言っていいよ…」
などと、言うから、
「違うって言ってるだろ」
と、養生テープで由依の手を窓枠に貼り付けてやった。
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