怖がり

1/1
前へ
/31ページ
次へ

怖がり

「まぁ、蛍光灯って突然切れるもんだから」 などと言いつつ、進もうとすると、何かが袖を引っ張った。 「わっ」 と、後ろを見ると…、由依が袖を持っていた。 「びっくりさせんなよ」 と言うと、 「そんなに驚かないでよ…」 と言う。  手前の教室を2つ過ぎて、自分たちの教室の前に来た。廊下は暗いまま。教室の照明スイッチは奥の入り口扉の側にある。 「小早川くん、スイッチ点けて来て」 「あぁ、わかった」 と歩こうとすると、 「やっぱり私も行く」 と言って、今度は腕を掴む。それも結構な力で。  顔を見るとかなり強張(こわば)っている。  ……ふと聞いてみた。 「ちょっと聞くけど、怖がりなの?」  由依は黙って頷いた。 「ぷっ」  思わず、空いてる方の手で口を覆った。  その顔つきがいつもと違い、まるで小学生のようだったので。 「笑わないでよ…」 と言うその声も、なんとも心細げでウケてしまった。  パーフェクトな由依の弱点を見つけたようで、なんだか急にツッコミたくなった。 「普段、あんなにイケてるのにね」 「えっ、イケてる? まぁ、それは置いといて、ちょっと早く行こ」  いいこと知った、と思いながら、廊下を歩き、教室の前扉を開けた。  後ろのドアのガラスから僅かに光が差し込む教室は、昼間とはまるで別物のような様相で、数時間前までここで勉強していたとは思えない程怖ろし気だった。  スイッチを点ける。  次々と天井の蛍光灯が灯り、教室は明るくなった。だが、やはり人のいない夜の教室は不気味には違いない。 「あっ、やっぱり」 と由依が言った。  見ると、窓に大きく貼っていたモザイクとその台紙が、半分剥がれ落ちてた。 「このままだと明日の朝には(しわ)になっちゃう」  そりゃそうだ。  由依はすぐさま先生の机から養生テープをとり、窓の方に向かう。 「ねえ、私が押さえてるから、小早川くん、そのテープでしっかり貼ってよ」 「わかった」  養生テープをビビッと引っ張り出す音が教室に響く。それを手で切り、貼り付けていった。  真面目な顔して、由依はモザイクを押さえてる。 (そりゃそうか。自分のデザインだし、ここまでみんなを引っ張ってきたんだからな) と思いつつ、顔を見てると……、 「また私のこと、見てたでしょ」 と言う。 「いや、見てない、見てない」 と否定した。 「うそ、今度こそ視線感じたもん」 「いや、見たのは、その…、真面目な顔してるな、と思ってただけで」 「ほんとぉ? なんか違う種類の視線を感じたけど…」 「単純にそうなの」 と言うと、ちょっと顔を近づけ、 「正直に言っていいよ…」 などと、言うから、 「違うって言ってるだろ」 と、養生テープで由依の手を窓枠に貼り付けてやった。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加