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当たってる
「えーっ、ヒドイ。か弱い女の子に」
(誰が?)
その声は穏やかで、あの時みたいな感じじゃなかった。
「変なこと言うから」
と言って、テープをゆっくり剥がした。
「痛いよ…」
「脱毛してるの」
「毛深くないもん」
「……」
「乙女の肌が荒れたわ。責任とってもらわなきゃ」
などと言っていたが、気にせず、作業を続けた。
なんとか20分くらいで修理は終わった。
「明日、陽が当たるときれいだろうね」
と、言うと、
「そうでしょ!」
と嬉しそうに笑う。
(やっぱりわかりやすいタイプ)
「さて、帰ろう」
荷物を持って、前の扉のところまで行く。
「消すよ」
「うん」
由依がまた袖を掴んでる。
スイッチを押すと、教室は一気に暗闇になった。廊下はもともと暗い。
由依が腕を掴む。
「なんか来る時より帰る時の方が怖いな」
「やっぱ小早川くんも怖いんじゃない」
「そりゃまぁ多少は…」
暗闇を背にして歩くのは気持ちいいもんじゃない。ただ隣にはもっと怖がりがいる。
(ちょっと怖がらせてやれ)
「何か付いて来てないよね?」
「変なこと言わないでよ」
そうっと後ろを振り返る。
由依もつられて後ろを振り返った時、
「わっ!」
…と、軽く脅かすつもりだったが、驚いた由依は思い切り腕にしがみ付いた。
「ぷっ」
その姿が面白くて、また吹き出した。
「なんかちっちゃい子みたい。泣きそうな顔になってる」
と言うと、
「怖いもん」
と言って腕から離れようとしない。
「あの…、一つ言っていい?」
「何?」
「当たってるんだけど」
由依は「あっ」という顔をしてすっと離れ、
「えっち…」
と一言呟いた。
それでまた笑ってると、
「でも、嬉しかったんでしょ?」
などと言う。
「ねぇねぇ、本当は嬉しかったんでしょ?」
とうるさい。
本当に。
でも、今日はなんだか面白かったなと思いながら、途中まで一緒に歩いて帰った。
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