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また、妖でも人に混じって生きている者が、たまたま霊力を持つ誰かとイザコザを起こして遺体、もしくは何らかの被害が一般人の目にも見える形で痕跡を残した場合、一般人の記憶操作や、世間に不自然でない形で『事件』を終息させる――つまり妖が絡んだ事件の後始末も、職務の内らしい。
「ほかに、人間世界での冤罪事件捜査や、長引いている犯罪案件などの解決助力も含まれるのだが……」
「それって警察案件じゃないのか」
「公的機関と言ったであろう。但し、現世と重なって存在する異界――つまり、魔界のだ。それゆえか、現世警察との情報共有も緊密に行われている。最近は、ファントムがアマクダリ先にもなっておるというもっぱらの噂だが……」
(おいおい)
冴月は呆れたように目を細めた。葛葉には、『天下り』の意味がよく分かっていないらしいが、要するに『不正の温床』というヤツだ。
「まあともかく、あの二人は対妖セクション……通称、H.C.P.S.の任務を根本的に履き違えている。部内にあって、霊的な戦闘力は絶大なので、今のところ対妖セクションから外されてはいないがな」
肩を竦めて、呆れ半分哀れみ半分の表情で葛葉は言葉を継いだ。
「そして、今我々が担当案件として捜査しているのがまさにその、カートの中身だ」
葛葉のしなやかな指先が、和華の持っているキャリーカートを示す。
「改めて訊こう。そなたたちは、どういう経緯で、何の目的でその薬を手にしている?」
葛葉の、二人を見る目線が、かすかに厳しくなった。
***
「公的機関の取り締まりが職務って奴は、いっつもそうだよな。最初っから疑って掛かるなら、話すだけ時間の無駄だ」
投げるように言った冴月が妖化を解き、開いた空間の穴から薬の箱を引っ張り出した。そのまま、彼は薬箱を葛葉に放り投げる。
葛葉が慌てて薬箱をキャッチするのにかぶせて、「あとは好きにしろ」と言った冴月は、そのまま空間へ滑り込みそうになった。
「待って!」
思わずその背に追い縋った和華は、間一髪、彼――と今し方判明したばかり――の着ていたパーカーを捕まえる。
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