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Prologue
それは、ある土曜日の午前中のことだった。一夏は、寮の自室の中で机の前に座り、もう一時間も掌に持った小瓶と睨めっこしている。
見た目は綺麗だ。
深い青色で透き通っていて、材質はビー玉のよう。中の液体の色も、瓶の色に染まって見える。物語に出てきそうな、まさに『魔法の薬(の瓶)』だ。
全寮制の高校へ入学してから、ある事情から、食事はずっとコンビニ弁当だった。その所為か、三年生になった今、お腹やら二の腕やら太股やらが、少々ふくよかになりつつある。
周囲の人間は何も言わないし、両親も言うに及ばずだが、花も恥じらう年頃の乙女には、深刻な問題だ。
この数日、恐ろしくて体重計に乗れていない。ダイエットを決意したのは、当然の成り行きだった。
それを、仲のいい友人のリエに、話の流れで打ち明けたら、『じゃあ、試してみる?』という言葉と共に渡されたのが、今、一夏の手にある薄青い小瓶だ。
『魔法の薬なんだって』
その時のやり取りが、脳裏をよぎった。
『魔法の薬?』
『そう。ウチの父が言ってたの。話してる相手は分からなかったけど……願いが叶うんだって』
無邪気に笑っていた彼女には悪いが、率直に言って、胡散臭いと思わなくもなかった。けれど、リエは幼い頃から一緒の親友だ。
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