落ちてゆく身体

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落ちてゆく身体

 そうこうして僕は入院する事になった。耳鼻科だった。  連日のように採血され、レントゲンを撮られ、MRIに入れられ分かったのは――  原因が分からない、という事。  そして耳の穴も鼓膜も蝸牛も――落ちた左耳に関連する器官が全て無くなっている。つまり、左の耳が落ちた事で、左耳の機能も失ったという事だけだった。  そして一週間が経ち――何も分からないまま『何か異常が出たら連絡してください』と言われ退院となったその日。  着替えの入ったバッグを持ち上げようとしたら持ち上がらなかった。 「あれ?」と思いバッグを見ると、バッグの持ち手に自分の左手首が残ったままだった。  手首を失った左手の先は、これまた元から手なんかありませんでしたと言わんばかりにつるんとしていた。    今度は左手首を落としてしまった。  僕はそのまま整形外科への転科が決まった。  そして再び検査漬けとなったのだけれど、またしても検査結果は異状無し。  だがその一週間後、ベッドから降りようとして盛大に転んだ。見ると右の足首が無くなっており、足首はベッドに残ったままだった。  その一週間後、松葉杖を使って病棟を移動している時、廊下に右膝から下を落としてしまい『何か落したよ』と声を掛けてくれた掃除のおばちゃんを卒倒させる事件を起こしてしまった。  そしてとうとう――あぁ、なんという事だ。もしやと予想はしていたがまさか本当にこの日が来てしまうとは。神よ。もし居るのならアナタを呪います。  トイレに座って用を足し、『お願いします』と看護師に頼んで尻を拭いてもらい水を流して貰うその瞬間――股間の逸物がポチャンと便器に落ちた。 「あ」 「えっ?」ジャ――  こうして僕の股間は看護師によってそのままトイレに流されてしまった。  さすがに数日間は食事も喉を通らなかった。  この頃になると、病院側も僕も『一週間に一か所、どこかが落ちる』というパターンを把握出来ていた。だが医師も看護師も――僕も。それを口にすることは無かった。 『どこまで落ちるのか』 その事を考えたくないから。 『全部落ちたその後はどうなるのか』 予想もしたくないから。  きっと、関節もしくは別の部分との繋ぎ目から落ちてゆくのだろう。  だとすれば、僕に残されたのはあと右耳、右腕が全部に左上腕と前腕。右大腿部に左下肢が全部。  つまり――10週間。  その後は?  その後なんてどうなるかなんて分からないし考えられない。  右腕が落ちたらこのノートだって書けなくなってしまう。  明日目が覚めたら全て夢だったっていうオチが欲しい。  車を運転したかった。恋もしたかった。  平凡な毎日というのがどれだけ大事で尊いモノなのか身を以て知った。  だから誰か助けてよ。お願いだから助けてよ。  どれだけ落ちたら、僕は死ぬのだろう。 ――この後、判読困難
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