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そうしているうちに高校三年となり、受験となり、卒業となった。僕らは各々の未来のため、生まれて初めて別々の進路を選んだ。
大学生活は様々なことに忙殺され、明海と会う時間をなかなか取れなかった。家は近所なのに、互いが互いに遠慮していたのかも知れない。
たまに電話で話した。今どんな勉強をしているか、何の資格を取ろうとしているか。教授たちの物真似や悪口、交友関係の中であった出来事。僕はいつまでも彼女の声を聞いていたかった。けれども「好きだ」の三文字が、どうしたって言えなかった。
転機が訪れたのは、社会人二年目の秋だった。本当に偶然、ふらりと立ち寄った居酒屋に彼女がいたのだ。これを逃すと、もうチャンスはないかも知れない。僕は自らの内気さを酔いの内に眠らせ、臆病な自分に訣別する思いで告白をした。
『ずっと明海のことが好きだった。僕の景色の中には、いつでもきみがいた。これからもずっと傍にいてほしい。必ず幸せにするから』
そして今、僕は彼女の花嫁姿を見つめている。純白の中に微かなピンクが入ったシンプルなドレスだ。でも、世界で一番きれいな花嫁だと思った。
本当の意味の幸せとは何なのだろうと考えた。おそらくそれは、金銭的なことでも子宝に恵まれることでもない。社会的成功や、夢の成就でもない。僕は僕なりに、信頼と安心感を得ることこそが本当の幸せではないかと思った。この結婚式を終えた先の生活に、波風が立つなとは言わない。だけど信頼と安心感を損なわない暮らしになればいいと思った。
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