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3.契約違反
昼休みから戻り自席パソコンのロック画面を解除すると〝ダウンロード完了〟の表示が出ている。
「何これ」
確認するとかなり大きなデータがデスクトップに落ちていた。開くつもりなどなかったのに勝手にフォルダが開く。
「JPGファイル? 何かの写真?」
見ていると中の写真が次々に展開されていった。ウイルス感染したのだろうか。それよりこの写真。私は悲鳴をあげその場に蹲る。驚いた周りの皆もディスプレイを覗き込み言葉を失った。そこに映されていたのは……夥しい数の死体。
「何だよ、これ……。あ、この写真、昨年辞めた派遣の牧野さんじゃないか?」
課長が震える指で画面を指差す。確かに血塗れで目を見開いているその顔には見覚えがあった。あの男、死体写真を会社のパソコンからどこかにアップロードしてたんだ。そして自分に捜査の手が迫ってることを知り自棄になったアイツは自分の誘いを断った私に報復の意味でこんなことを……。私はそっとディスプレイの電源を消す。その時、受付からの内線が鳴った。
「はい……、伊藤です」
「あの、警察の方がいらしてます。伊藤さんに聞きたいことがあるそうで」
最後に矢代と話したのが私だと伝わっているのかもしれない。私は「すぐに行きます」と答え力なく受話器を置いた。
だが警察に聞かれたのは矢代との会話についてではなかった。聞かれたのはあの死体写真について。
「知りません。本当にあんな写真知らないんです。勝手にデータが落ちてきただけです」
矢代があの写真は私からもらったのだと主張しているらしい。写真データを見せつけて嫌がらせするだけでは飽き足らずそんなことを言い出すなんて。そんなの……。
――契約違反じゃない。
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