契約

４．意外な事実

　社員が逮捕されたとあって社内は蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。その騒ぎは数週間経った今でも続いている。
「ねぇ、聞いた？　例の事件」
「うん、聞いた聞いた。うちの会社にあんな怖いことする人がいたなんてビックリ」
「そうよね、しかも……二人も」
　逮捕されたのは矢代と伊藤。矢代は死体損壊などの容疑で、そして伊藤は……殺人容疑で逮捕されていた。
　矢代には死体を見て興奮する性癖があったといい「生きた女に興味のあるフリも大変だったさ」などと嘯(うそぶ)いているらしい。最近になって遺体の中には矢代自らが手を下したものもあるのではないかと警察は疑っているという。一方の伊藤には婚約していた恋人を派遣の若い女性に奪われた過去があり、派遣女性を目の敵(かたき)にしていた。
「怖い、怖い。死体が好きな男に嫉妬で人殺しちゃう女とか」
「だよね。しかも伊藤さんなんて全然反省してないんでしょ？」
　伊藤は全く反省の色を見せることなく悠然とした態度で取り調べに応じているのだという。
「ま、お互い殺されずに済んでよかったね」
　そう言って女性社員たちは肩をすくめた。