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「おぃ、起きろ」
肩を強く揺すられ、ハッとして目を開けると真っ黒い服を着たヤンキーっぽい、怖そうなおとこのひとが目の前に立っていた。
「おにいちゃん、だぁ~~れ?」
「死神だ。お前を迎えに来たんだよ」
「しにがみさんはじめまして。ぼく、りくくん。ろくさい。はるになったらしょうがっこうにはいるんだ」
「そうだったんだ。ところでお前なんでこんなところで寝てんだよ。これ、犬用のゲージだろう。ほら、手を貸してやるから」
真っ白な手袋を付けた手を差し出された。
「おにいちゃん、ありがとう」
ちーくんみたくハイハイして外に這い出た。
「あれれ?」
「どうした?」
「てにわっか、ない。あしにわっか、ない。てのけが、ほら、なおってるよ。かおもひりひりしない。からだもいたくない。おなかもすいてない」
「そりゃあ、そうだ。お前は死んだんだから」
「そうなんだ」
「は?それだけ?普通はもっと驚くぞ。現実を受け入れられなくてパニックになるもんだぞ」
「だっててんごくにいけば、りくくんのことかわいがってくれたじいちゃんとばあちゃんにあえるでしょう?」
「まぁ、そりゃあそうだな。ただし、会えるかは分からないぞ」
「りくくん、じいちゃんとばあちゃんさがすからだいじょうぶだよ」
「そうか。りくに見付けてもらったらきっとふたりとも喜ぶな。ほら、行くぞ」
死神さんに手を引っ張られた。
「しにがみさん、まって」
「なんだ?」
「りくくんのおねがい、ひとつだけきいてほしい」
「足枷と手錠で拘束し、お前をケージに閉じ込め、飯を与えず、ぼこぼこに殴り、病院へも連れていかず放置し死なせた親を呪い殺したい、そうだろ?」
「ううん、ちがう」
首を横に振った。
「ぼくがいうことをきかないから、おバカさんだから。おりこうさんになれなかったぼくがわるいの。ママもあたらしいパパもわるくない。ちーくんとるーちゃんにはりくはママとパパがひつようでしょう」
「りく、あのな」
死神さんがため息をついた。
ちーくんはもう少しで一歳のお誕生日を迎える弟。るーちゃんはママのお腹にいる妹。もう少しで生まれてくる。
「りくくんね、ようちえんにいきたいの。みんなにずっとあってないから、みんなきっとしんぱいしているとおもうんだ。てんごくにいくまえにみんなにバイバイしたい」
「そうか、分かったよ。乗り掛かった船だ。任せておけ」
ママに捨てられたはずの園カバンと、制服を死神さんどこからか持ってきてくれた。
「先生や子どもたちには元気だった頃のりくの姿で見えている。だが、それも昼までだ。あ、そうだ。肝心なことを言い忘れるところだった。俺の姿はりくにしか見えないから安心しろ。ほら、行ってこい」
「うん。いってきます」
死神さんにぶんぶんと手を振り、一ヶ月ぶりにひまわり幼稚園、ばら組さんに登園した。
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