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「……あ、生きてる」
目を覚ました瀧さんは、何食わぬ顔で現世へお帰りなさったようだ。
「あぁ……、大家さん。今回も。なんかすいません」
「……いえ、おかまいなく」
握った布団に穴が開きそうなほど力一杯の営業スマイルを湛えて、瀧さんに笑っていないであろう目線をくれてやる。
「前回も言ったと思うんですけど、別に俺のこと助けなくていいんですよ。大家さん、優しさは別の方に使ってあげてください」
ああ、神様。どうして、瀧さんを生かすのですか? こんな男のどこに生かす価値があるのでしょうか。こんな男、死んでしまえと思うあたしが悪魔なのでしょうか。
「前回も言ったと思うんですけど、」
荒い息を抑えて、大きく深呼吸。
落ち着け、陽葵。瀧さんは、来世で不幸になる。絶対なる。
「死なれると困るんです事故物件になるんで、あと大家って呼ぶの止めてくれませんかおばさんくさいんで鈴原です鈴原陽葵です」
そこまで一息で告げ、瀧さんを睨みつける。
「……そうでしたっけ、大家さん」
首回りについた赤い痕をカリカリと掻きながら、瀧さんの白々しい声が病室にこだまする。心なしか天井を見つめる横顔が、うすら笑ったように見えた。
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