3回目の自殺

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「……なんなんですか? 首吊ろうとして、失敗するって。しかも、首吊りじゃなくて棚に頭ぶつけて脳震とう起こすって」 「今回は誰が見つけちゃったんですか? 鍵かけてたのに」  見つけちゃったんですか(・・・・・・・・)? ちゃったんですか(・・・・・・・・)?  「同僚の方がアポ先から帰ってこないって、心配して家まで来たんです。それで」 「えー……。もうほっといてくれてもいいのに。失踪するような奴」 両手で顔を覆いながら、絶望した声を出す瀧さん。やけに白くて綺麗な手が、余計に憎い。……救急車呼ぶ前に、軽く首絞めておけばよかった。 「その通りですよ、瀧さん。早く死んでくれません?」 思っていたことをそのまま投げやりにぶつけると、「えっ! いいの?」と、返事が戻ってくる。目を輝かせる自殺未遂男は、正気の沙汰ではない。 「はい。ただし敷地外で」 「……敷地外は、痛いことばっかりだからヤダ」 何が、ヤダ、だ。三十路の男が吐いていい言葉ではない。断じてない。 「何か成し遂げるとか、両親に恩を返すとか、死ぬ前にそういうのは無いんですか?」 「ないね。断じてないね。成し遂げたいことも、恩を返す人も。親いないし」 聞いたあたしが馬鹿でした。 なぜ、あたしが申し訳ない感じになるのだろう。そして、やっぱりこんな奴がなぜ生かされているのだろうか。初めて自然の摂理に疑問を抱いた。 「……とにかく。もうこれっきりにしてください、瀧さん。じゃないと、本当に出て行ってもらいますからね」 「……善処します」 腐ってもサラリーマン。 善処の意味するところは、すなわち、何も変える気はない、だ。
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