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一生ベッドに縛りつけられて帰ってこなければいいものの、明日には退院だそうで。
ため息と呼吸の区別がつかない息を吐きだしては吸っていたら、メゾン・ベルバラ101号室の前にたどり着いていた。
瀧さんの住む102号室の錆びた扉に、冷たい視線を送ってみる。玄関扉を力いっぱいに殴る。殴る。殴る。一発蹴りも入れてやる。
何の反応も無い。そりゃそうだ。
表札には「瀧春介」の文字が、へなへなと所在無げに貼りついている。
「……今どき、表札に名前書くかね」
べ、と舌を小さく出して、精一杯の軽蔑をくれてやった。
時刻は深夜午前零時。
「げっ。明日試験なんですけど?」
大きな独り言が塗装の禿げたボロアパートの柱に吸い込まれていく。
大家なんて良いことなし。おばさんくさいもん。キラキラした大学生活は、どこに落としてしまったのだろうか。
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