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復讐……?
家賃はタダだが、瀧さんに付き添った時間と交通費は返ってこない。叔母さんは瀧さんのことなんて教えてくれなかった。知っていたら、大家なんて引き受けなかった。絶対に引き受けなかった。
あずき色だと思われる変な色の玄関扉をくぐり、履きつぶした濃い赤のパンプスを脱ぐ。滑りの悪い床にあたしの全体重を押し付けて、ひたひたと一歩ずつ部屋の奥へ進む。明かりの灯らない部屋は主の帰りを拒むように静かで、床に座るとじんわりと冷たかった。
深いため息を一つついて、唯一の照明から垂れる紐をゆっくり引く。カチン、という音に遅れて、丸い蛍光灯がぱちぱちと瞬きをすると、くるりと光が円を描いて部屋を照らす。
これは、搾取だ。
明るい光が部屋に溜まると同時に、あたしの頭にもまた、光が満ちてくる。
そうだ。これは瀧さんによる、あたしの搾取なのだ。次、なんて流暢なことを言って、対策を講じないなんてありえない。住まわせてやっている恩を仇で返すような輩には。
復讐してやる。
「骨の髄まで、しみしみに幸せ味合わせて、死ねなくしてやる!」
メゾン・ベルバラ、事故物件回避のため。そして、あたし自身の平穏な暮らしのため。瀧春介を、死ねない体にしてやろうではありませんか。
「死ねないって、言わせてやる……!」
作戦は明日の退院を合図にスタート。今日はゆっくり眠って、体力温存といきましょう。
神様はあたしを悪魔だとは思っていない。こんな名案が浮かぶのだから。瀧さんが悪魔で、あたしは天使。それは間違いない。
嬉しくなってベッドへ飛び込むと、いつになく安らかな眠りがあたしに訪れてくれた。
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