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「三回目は首吊りに失敗して頭打って失神です」
笑いごとじゃないけど、と言いながら、舞子はくつくつとかわいらしい笑い声を立てる。
「一回目は飛び降りだっけ?」
「ウチのアパートの二階から。ただでさえ天井低い家なのに死ねるわけがないっつーのね」
「二回目の眠剤事件が好きかなぁ」
「好きとかの問題じゃないんだよなー」
「死にきれなくて自ら救急車呼んじゃうのは、一周回ってかわいいもん」
舞子よ。本人を見たら、そんなことは言えないぞ。三十路のくたびれたおじさんだぞ。
「そこで、わたくし。奴を幸せにしてやろうと思いまして」
「いやあ、陽葵ってホントに物好きだよねぇ」
爪のチェックが終わり、こちらを訝しげに見つめる舞子に、あたしは改めて宣誓する。
「これは復讐なのです」
呆れた顔でスマホを取り出し、ネイルサロンの予約を始めた。爪の調子は悪かったらしい。
「それでさぁ。幸せにするって、何するのぉ?」
興味が無いようにしていても、話を聞いてくれる彼女だから憎めない。
「んー。とりあえず、掃除からかな」
「家政婦になる、と」
「違います。ぜーったい違います」
「でもさぁ、他人の幸せなんてわかんないでしょう。決めつけられると、それこそ死にたくなるだろうから気をつけてねぇ」
もっともらしいことを言って、舞子は軽やかに放課後の時の流れに飲まれていった。
「……幸せ、ねぇ」
舞子のヒールのカツカツという固い音は、復讐計画の難航を知らせる合図のように、あたしの頭の中に散らばっていった。
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