幽霊になった僕

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耳を劈く(つんざ)ような車のクラクションが鳴り響いたと思うと、歩きだそうと一歩前に踏み出していた右足が身体を支えていた左足の前を通り過ぎる。 人間とは不思議なもので、一度に大量のことが起こるとどんなに脳みそであっても起きた事象に対する処理をやめるらしい。 瞬時に左足を地面から放して身体を宙に投げ出す。 脳が事象への処理を再開すると、一瞬にして自分が車に()ねられた事を理解する。 空中では意外と冷静で、このまま背中から落ちるのと横向くのはどっちがいいのか、なんて悠長に考えていると急速に背中に何か、恐らく地面が近づいてくる感覚に襲われ、全身が硬直する。 それでも頭は冷静で地面の感覚が迫ってくると衝撃に備えて目を瞑りながら体全体に力を入れる。 3秒くらいしても全身はおろか、背中にすら衝撃はなく、感じていたはずの地面が近づく感覚すらなくなっていた。 もしかして死ぬときは痛みすら感じずに逝けるのかと考えると妙にすんなりと自分の死を受け入れられそうで瞑った目を開けたら何が見えるのか、そもそも何か見えるのかと少しだけ期待をする。
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