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しかし、そんな期待は数秒前に聞いたクラクションと、そのときは聞こえなかった女性の悲鳴に打ち壊された。
身体が聞こえた音にビクッと震わせると同時に反射的に目を開けてしまう。
眼前にはそこは見通しが良く、いつも通勤に使っていた道路と横断歩道を示す白い塗装の上に前半分だけ掛かるように停まる1台の青い乗用車。
そして、僕の隣に腰を抜かしている女性。
先程のクラクションと悲鳴はこの1台と1人から出されたものだろうと考えると、並んで立つ僕らの左斜め前、つまり車の前方にドスンと鈍い音を立てて何か塊が落ちてきた。
その塊が人で、目の前で起きたのは交通事故だと悟ったが、そこに倒れているのは紛れもなく自分だった。
20年以上も鏡で見ていて、今朝だって見たばかりの自分の顔を見間違うはずもない。
格好だって好んで着ている赤のパーカーだ。
全く同じパーカーを着たドッペルゲンガーではないかと思おうとするが、それはそれで気味が悪い。
とは言っても目の前の落ちてきた人間が自分だということのほうが気味が悪い。
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