深夜のコール

1/1
前へ
/61ページ
次へ

深夜のコール

ど深夜。 内容は忘れたが、私は悪夢を見て飛び起きた。 目覚めた時に叫んだから、相当嫌な夢だったんだろう。 で。枕元に置いていたスマホに触れてしまい、あろうことか電話をかけてしまったのだ。 (さかき)さんに。何で?? 「ちょっと待って!」 寝起きと悪夢の疲れで働かぬ頭と手を必死に動かし、何とかキャンセルする。 でも、コールしてしまったので、かけたことになってしまった。 「あー……」 寝てると思うけど、明日起きたら間違い電話ってメッセージ送ろ……。と、思ったら電話が掛かって来た。榊さんから。え、怖っ……。 深夜だし、悪夢を見た後だから、私の頭はオカルトモードになっている。榊さんじゃないかもしれない。でも、最初掛けたのは私だ。覚悟を決めて電話に出る。 「も、もしもし……」 “すみちゃんか?” 起き抜けみたいな声だが、警戒の色もある。多分榊さんも、私が私であるか疑っているんだろう。当たり前だ。こんな時間に電話とか、軽く怪談みたいなもんだし。 「そうです。すみません。間違えて掛けました……本当にすみません」 夢と現実で精神ダメージが半端ないし、恥ずかしい。動悸もまだ治まってないから、息を変な風に吸って咳き込んだ。最悪。 “本当に間違えただけか?” 咳の合間に聞こえた声は、すっかりいつも通りになっている。やばいやばい。完全に起こした。 「ええ。大丈夫ですから。寝てください。お騒がせしました」 “すみちゃん、” 私は返事を待たずぶち切る。 勘弁してくれ自分……。スマホを放って深呼吸する。だけど、スマホが鳴った。メッセージが届いている。榊さんから。 『気になって眠れねぇんだけど。本当に大丈夫か?』 ……ああ、本当に……この人は。 私はもう一度深呼吸して呼吸を整える。 メッセージを返した。 『悪い夢を見て飛び起きた時に、スマホに手が当たったんです。それで掛けてしまったみたいで……キャンセルしたんですけど間に合いませんでした。すみません。本当に大丈夫ですから』 ちゃんと通じる文章だろうか? 夜中に打つ自分のメッセージは、あまり信用出来ない。 少しの後、返信が来る。 『分かった。一人暮らしなんだし無理するな』 改めて恥ずかしい。悪夢見て飛び起きた挙げ句、間違えて電話を掛けてしまった事実が。 『ありがとうございます。忘れてください』 送りながら、涙目になる。 『んな落ち込むなよ。厄払い出来たと思えばいいじゃん。悪夢は人に話すといいらしいし』 それもそうだけど。そうなんだけど……。 というか、内容忘れてるし話してないし意味が無いような。 ……いや、今こんなことを考えても不毛だ。 『気をつけます。おやすみなさい』 『おやすみ。次は良い夢見ろよ』 榊さんからの返信を見て、息を吐き出す。 ようやく呼吸も落ち着いて来た。 明日出勤したら絶対からかわれるな、と思いつつ、榊さんが笑ってるのを想像して少しホッとする。正直まだ心細い。またやらかす可能性はある。けど。さっきまでのメッセージのやり取りを開いたまま、私はもう一度眠りについた。
/61ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加