贈り物

1/1
前へ
/61ページ
次へ

贈り物

いつもの佐和(さわ)商店。 「すみちゃん、これやるよ」 閉店間際の暇な時間に、(すみれ)(さかき)から小さな紙袋を受け取った。 「!何ですか?これ」 不思議そうな菫に、榊が笑って説明する。 「出先で買った。面白い露店だったから、お土産だ。前、日本刀キーホルダーくれたじゃん?お返しだな」 「ありがとうございます。お返しとかそういうつもりじゃなかったんですが」 照れたような、はにかむような表情の菫に、榊の眼差しも優しくなる。 「気にすんな。貰っとけ貰っとけ」 「ありがとうございます。ーーペンダント?」 袋からそれを取り出した菫は、光に翳す。雫型の少し大きめな水晶がペンダントトップになっているだけの、シンプルなチェーンペンダント。 「水晶らしいぜ」 菫は早速首に着ける。白いワイシャツの上で、雫が揺れた。 「大事にします」 パッと、文字通り花が咲いたように笑う菫。 あまり見ない嬉しげな笑みに、榊もつられて笑った。 (外では分からんが、ここでももっとそうやって笑えば良いのに……ああ、いや、他の奴らに見せるのは惜しいような気も……) 何とも複雑な気分になる榊だが、自分の土産物が喜ばれたのは素直に嬉しい。 その日から菫は、ワイシャツの下に隠してペンダントを着けて来るようになった。 ある時、菫が店長である吉瑞にペンダントのことを尋ねられ、「大事なお守りです」と笑って答えていた。 それを榊がうっかり聞いてしまい、動揺でレジを盛大に打ち間違えたのは別の話である。
/61ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加