スノードーム

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スノードーム

……水?……雪? ぶくりと泡が立つ。 その周りを、白と銀のキラキラしたものが舞っている。ふわりと身体が浮いていて、浮遊感で目眩がした。仰向けで、手足を伸ばしても、何にもぶつからない。息は出来るけど、上手く身体が動かなくて、仰向けのまま空を見上げる。 水面、とまではいかないけど、透明な空は揺らいでいた。何となく、心地良い。差して来る光が少し眩しくて、目を閉じる。このままじゃダメだけど、あと少しーー “ーーすみちゃん” 耳元で囁くような、優しい声に目を開く。 この声は……。 “戻って来いよ。そろそろ起きる時間だぜ” 「ーー(さかき)さん?」 水の中から引上げられるような感覚と共に、視界が真っ白になった。 「お、起きたか?」 「えっと、」 榊さんが、私を覗き込んでいる。 身体が重怠い。水から上がった直後みたいな感覚。床に座る榊さんに、抱き抱えられている。 店の倉庫。 「私、どうしたんですか……」 「スノードームに捕まってた。俺の代わりに」 「へ?」 榊さんが私の手から何かを取る。 手のひらサイズのスノードーム。中でキラキラと、雪だけが舞っている。そうだ。 「これ……榊さんが触るのはダメで」 伸ばした手を、優しく押し戻された。 「もう大丈夫だ」 榊さんが床に置いた瞬間、ドームが勝手に割れた。水は無く、雪が溢れ出て、さらさらと消えた。終わり。 「ありがとな」 暖かい手が、髪を撫でた。
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