HappyBirthday Violet

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HappyBirthday Violet

(すみれ)ちゃんお誕生日だって!?おめでとう!仕事してて良いの!?」 いつもの佐和商店。 普通に仕事してたら、店長の吉瑞(きずき)さんが店に来るなりそう言ってくれた。(さかき)さんは呆れた顔をしている。 「それ店長が言うのかよ」 「いやー榊に無理やり引っ張り出されたのかな、って」 「んなことするか。シフトだよ、シフト」 「特別なこともありませんし。一人でいるより榊さんといた方が良いので」 「さらっとそういうこと言うー。俺心の準備出来てないけど?」 榊さんが顔を手で覆い、そっぽを向く。吉瑞さんが爆笑した。 「お祝いのケーキ持って来たから、冷蔵庫入れとくね。仕事終わったら食べて!」 「え!?そんなお気遣いいただかなくても……」 さっさと事務所の冷蔵庫にケーキを入れて来た後で、私は吉瑞さんに抱き締められた。 「私がお祝いしたいのー!おめでとう!良い一年にしてね!」 ふわりと、甘やかな香りがする。優しくて暖かくて、少しくすぐったい。 「……ありがとうございます」 じっ、と後ろから視線を感じる。少し見上げると、吉瑞さんが私の後ろの方を見てにやにやと笑っていた。 「私だって菫ちゃん好きだもん!そんな顔したってハグくらいするわよ」 そんな顔って。 「榊さん?」 肩越しに振り向くと、凄く不機嫌そうな顔をした榊さんが見えた。 「ええ……」 「菫ちゃん引いてるじゃん」 「引いてはいませんけど」 「店で堂々とハグされると腹立つな」 そう言う榊さんの目は据わっている。 「恋人の誕生日にガチ切れする男とか、嫌われるよ?」 真面目に指摘され、榊さんが一気にバツが悪そうな焦ったような、そんな顔になる。 榊さんのあんまり見ない表情ばかり見る気がした。吉瑞さんはまたさっさと店を出てしまい、私と榊さんだけになる。 「榊さんって、ああいう表情もするんですね」 「ん?何の話だよ」 まだ若干複雑そうな顔の榊さんが、私を見た。 「いえ。ちょっと嬉しかったので」 「嬉しい?俺妬けてどうにかなりそうなんだけど」 榊さんと店内でハグ、ってしたこと無いわけじゃないけど、事務所とか外に見えないとこだったと思い至る、当たり前だけど。 「せっかく誕生日に不愉快な思いをさせるのもあれですね……」 「ん?」 私は少し考えて、榊さんの小指に自分の小指を絡めて繋いだ。お客さんが来ても、カウンターで私たちの手は直ぐには見えない。 「この後も一緒にいるんですし、とりあえず今はこれで機嫌直してください」 うーん、でもこれ私が恥ずかしいやつかも。解こうとしたら、ギュッと繋がりが強められた。 「そういうとこだよ、本当」 小指ごと、少し身体を引き寄せられる。見上げたら、榊さんがにやっと笑ってた。いつもの榊さん。 「面白くて可愛くて全然目が離せねぇ、すみちゃんは」 屈託無い笑顔が眩しく見えて、あんまり直視出来ない。顔が一気に熱くなる。 「誕生日おめでとう、すみちゃん。これからも側にいてくれ。よろしくな」 「よろしくお願いします」 繋いだ暖かな小指は、まだ解けそうに無い。 良い誕生日だし、また一年頑張ろ、って思えた。
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