月は禁止

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月は禁止

佐和商店での仕事中、菫がぽつりと呟いた。 「今日、中秋の名月らしいですね」 榊は直ぐに反応して、菫の方を見る。 「……月、見てないよな?」 菫と榊は、悲しいかな月に多少因縁がある。榊の警戒した目を見て、菫は苦笑いを浮かべた。 「榊さんこそ。私はこれでも学んだつもりです」 榊は安心した気恥ずかしさを隠す為、にやっと笑う。 「危険は向こうから飛び込んで来るタイプだからな、すみちゃんの場合」 菫は複雑な表情で肩を竦めた。 「言い返せないのが悲しいです」 「月より団子ってことで。今日仕事終わったら、帰りに月見団子と月見サンド買って帰ろうぜ」 楽しげな榊の提案に、菫も声を弾ませる。 「月見サンドって、スーパーのパン屋さんの新商品ですよね。食べてみたかったんです」 菫の無邪気な笑い顔に和みつつ、榊は微かな声で呟く。 「ま、何が何度来ても俺たちがやることは同じだけど」 「何か言いました?榊さん」 ちょうどカウンター内の作業に掛かろうとしていた菫が、不思議そうにしている。榊は首を横に振った。 「いーや。早く仕事終わらねぇかな、って」 「まだ夕方ですよ」 呆れたような苦笑いを見、楽しげに声を出して榊は笑った。
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