足音と守り刀の活躍

1/1
24人が本棚に入れています
本棚に追加
/61ページ

足音と守り刀の活躍

いつもの佐和商店。 じゃんけんに負けて倉庫に来ていた私・芽吹菫(めぶきすみれ)が、電気を消して売り場へ戻ろうと言う時。突然、(さかき)さんが飛び込むように入って来た。 「榊さん!?どうしました」 「いや、何かに押し込まれた」 「押し込まれた、って」 驚き過ぎて、頭を掻きながら倉庫のドアを見ている榊さんを、ただ見ていることしか出来ない。すると、不意に売り場の方から足音がした。お客さんかと思って出ようとすると、榊さんに止められる。 「出るな。音立てないように下がれ」 強引に、榊さんの背に隠された。直ぐ、言われた通りに息を潜める。やがて、ひたひたという、裸足で歩いているような足音が、店内を回り始めた。 「ナイナア……ナイナア……」 地の底から響くような声。背筋が凍る。生きてる人じゃないかも。 「ナイナア……ナイナア……ヒトノタマシイ、ナイナア……サッキマデミエテタノニ……ウマソウダッタノニ」 「!」 榊さんの身体が強張るのが、気配で分かった。私の身体も強張る。今店内を回っているのが人じゃないのは、明らか。何が来ているんだろう。考えたくない。その声はしばらく店内を回っていたけど、段々、入口のドアの方へと遠ざかって行く。榊さんが、倉庫のドアを薄く開けた。私も一緒に、それを見る。入口のドアから、げっそりと痩せ細った小さなお爺さんが出て行くところだった。真っ黒で昏い影を纏っていて、上手く言えないけど、嫌な感じがする。完全にお爺さんが出て行った後も、私たちはしばらく倉庫から出られなかった。閉店間際で良かった、本当に。たっぷり時間を置いて、私たちはようやく倉庫を出た。榊さんが、長く息を吐き出す。 「何だよあれ〜……」 「通りがかりの何かですかね……生きた心地しませんでした……」 売り場を見回ってからカウンターに戻ったけど、異常は無かった。 「榊さんが倉庫に飛び込んで来たの、何だったんですか?何かあったんですか?」 「ん?いや、売り場の棚整理してたら、急に見えない何かに服引っ張られてな。そのまま倉庫に押し込められた。心当たりは無い」 「胸張って言われましても……。助けてもらった、ってことですかね」 「そうじゃないか?」 榊さんが言った時、榊さんの上着から、ちゃり、と金属の音がした。榊さんがポケットに手を突っ込み、納得したような顔で笑う。 「そうだな、お前だな」 「え?」 榊さんが、ポケットから手を出して、見せてくれた。それは、私が贈った、黄金色の日本刀キーホルダー。榊さんの守り刀。ああ、そっか。 「そうですね。龍さんに間違いないです」 「そういや、今年は辰年でもあるか。早速活躍してもらっちまった。ありがとうな」 守り刀を見る榊さんの眼差しは、優しい。こんなことは予想もしてなかったけど、贈って良かったと思った。それから、私と榊さんは顔を見合わせて笑う。榊さんの手の中で、きらりと黄金色が輝いた。
/61ページ

最初のコメントを投稿しよう!