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切れ切れに聞こえる一つの声を追いかけるように、沢山の声がやさしくふくらみ、全体として一つの大きな音に聞こえる。 音の芯を保つように艶やかに響く声があった。カナンの声に間違いなかった。 「歌っているのか?」 僕の腕を掴む船員に尋ねると、船員が目を見張った。 「あんた、歌に聞こえるのか」 船員は片腕で、自分の耳を片方だけ塞いでいた。その声に、表情に、違和感を覚えた。 周りを見渡す。 殆どの人が動きを止め、じっと一つの方角を向いて祈りを捧げていた。何名かは船員と同じように手で耳を塞いでいる。 「これは魔物の唸り声だ。聞くだけで発狂する者もいる。俺はあんたが耐えられなくなって暴れ出すと思っていたんだが──存外、相性がいいかもな」 船員が手を放した。僕を信用していなかったのではなく、万が一の備えだったらしい。 祈りを捧げる船員たちから、切れ切れに、苦し気な声が聞こえてくる。僕の腕を抑えていた船員は、今や、しっかりと両手で耳を塞いでいる。 異様な光景に目を奪われていると、ぱったりと歌声が止んだ。 船員たちがほっとしたように顔を上げた。 競うように船室から出ていく。 僕も後に続いた。船の甲板から見える景色は変わっていた。 岩壁がそびえたつそこは、巨大な入江だった。 視線を感じて背後を振り向く。 魔物がいるという暗い洞窟が、ぽっかりと口を開けている。濃い闇を見つめていると、頭がくらくらしてきた。 闇から無理やり視線を引っぺがして、カナンを探す。カナンは船員たちに混じって作業をしていた。ロープの間を走り抜ける姿は溌剌としている。話しかけようとすると、カナンがぱっと僕を見た。にこり笑って、入り江から見える山の中腹を指さす。 示された先、木々の合間から顔を覗かせていたのは、ニムの遺跡だった。
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