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探索隊の荷物持ちとして、カナンも僕らに同行した。カナンはよく動き、笑い、場を明るくした。 天候が悪化したのは二日目の昼だった。 酷い雨が降り、行軍は停止せざるを得なかった。 高台にテントを張って、一息つく。 僕のテントにカナンがやってきた。虫よけの香を分けてくれるという。 香を焚く。雨に混じって、ねばつくような香の煙と、独特な匂いがひろがっていく。 お返しにあげたのは蜂蜜だった。 小瓶から、黄金色のとろりとした蜜をひと匙すくう。ビスケットにつけて渡す。一口齧ったカナンが目を輝かせた。 「おいしい、とても、おいしいです」 僕もビスケットと蜂蜜を食べた。疲れているせいか、いつもより甘い。 食べながら、村の生活について聞いた。 毎年、何人か、遺跡の調査や、宝を探しにやってくる人がいる。村は漁業に加え、それらの案内で食い扶持を得ている。村の中でも、魔物を楽しませることができる人は幾らもいない。最も多く魔物の相手をしてきたのがカナンの家系ということだった。血筋なのかもしれない。 魔物について聞こうとしたが、うまくはぐらかされた。代わりに、と洞窟にまつわる話をしてくれた。 「学者様は知らないでしょうけれど、あの洞窟の中の海は光るんです」 「本当に?」 海が光るなんて、聞いたことがない。僕は内陸の出なので、あまり詳しくないだけかもしれないが。 「船底のほうとか、船が通ったところが、淡く水色に光ります。海に足跡をつけているみたいで好きなんです。見せられないのが本当に残念」 「見るなら命と引き換えか」 「ええ」 いなされたな、と苦笑する。答えを返しながらも、禁止はしない。僕を刺激しないようにしている。さほど不快な気持ちにはならなかった。 カナンが淡く笑った。 軽く手を叩いて、続ける。 「ビスケットと蜂蜜のお返しに、歌はいかがですか?」
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