第二十一章 模索と焦りとひらめきと

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「亜希くんは、これまで必死に生きてきた。そうだよね?」 「ええ、まあ……」 「だったらこの入院は、少しの休息と考えてもいいと思うよ」 「休息、ですか」 「そう。それに、今亜希くんは貴重な体験をしてるんだから」  利実は亜希に、入院することで患者の気持ちが理解できる医者になれる、とも説いた。 「実際に医者になってる人間なんて、心身ともに非常識なくらいタフだよ。弱い立場の患者の心理に気づけない人、多いよ?」  亜希は病人になったことで、この先の未来で彼が診る患者の気持ちに寄り添える。  そんな風に、利実は亜希を慰め励ました。 「ありがとうございます」  ようやく笑顔を見せた亜希に、利実は手にした包みを差し出した。 「食べる? お見舞いに、リンゴを持ってきたよ」 「すみません。啓さんに、差し入れは口にしないよう言われてるんです」  亜希の食事は、全て栄養素やカロリーを計算されて三食出されている。  余分な食べ物は、過多になるので禁じられているのだ。
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