第八章 誕生日

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第八章 誕生日

「啓さん。あと二日後ですよ」 「あと二日後?」 「何の日でしょう」 「うん。ニール氏の、術後経過観察の日だ」  朝食の席で、亜希と啓は、こんな会話を交わしていた。  朗らかな亜希の声は、啓の返事に沈んでしまったが。 (啓さん。自分の誕生日、すっかり忘れてる)  外科医としての腕が、世界に知られている啓だ。  今回のように、海外から彼を頼ってやって来る患者も大勢いた。  明日は、その大切な手術の日。  そして啓は、念のために術後24時間は必ず、病院にそのまま詰めていた。 (お誕生日も、お仕事かぁ)  ちょっぴり、ブルーな亜希だ。 「ニール氏の容体次第では、少し長く帰れないから」 「はい」 「留守を、頼むよ」 「はい」  追い打ちをかけられ、泣きたくなる亜希だ。  それでも努めて、良い返事をしていた。
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