第十七章 贈る言葉

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 亜希が予備校に再び通い始め、啓も少しずつ病院にいる時間が長くなっていった。  そんなある日、啓に面談を求める男が現れた。 「菱先生。受付に、お会いしたいとおっしゃる方が見えてるんですけど」 「患者さん?」 「いいえ。王子さま、と名乗っておいでで……」  啓は、すぐに利実の顔を思い浮かべた。  しかし、会いに来た人物は、彼の父親だった。 「これは、菱先生。お忙しい時に、すみません」 「いえ、診察は終わりましたので」  二人は院内の応接室に場所を映し、ソファに掛けた。  お茶を出したスタッフが部屋を出ると、王子は話し始めた。 「実は、利実のことなんですが」 「利実くんが、何か」 「あなたとの婚約を、解消したいと言い出しまして」  啓は、意外な口火に軽く驚いた。
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