第十七章 贈る言葉

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『でも、君はあくまで愛人だから。婚約者は、僕。忘れないでね』  あんなことを言っていた、利実。  その彼が同じ口で、婚約解消と。  言葉を失っている亜希に、利実は話し続けた。 『啓さんが愛しているのは、僕じゃなくって、亜希くん。それが、解っちゃったんだ』 「で、でも……」 『もちろん、恋愛と結婚は、別物。だから僕は、啓さんと結婚する気でいたよ』 「……」 『僕だって、啓さんのことが好き。でも亜希くんは、僕以上に彼のことが好きなんだ』 「……」  黙ってしまった亜希に、利実は笑いかけた。 『ごめんね。自分のことばっかり、喋って』 「い、いいえ」 『受験勉強は、どう? 医大、合格できそう?』 「今のところ、順調です」  亜希がようやく話せるようになったころを見計らって、利実は最後の言葉を告げた。
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