マンホール炎上

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 N市内で元日から3日連続で放火事件が発生した。   連続放火はまず元日の安孫子神社から始まった。早朝に境内の建物でボヤが発生したと消防に通報が入ったのだった。消防が急行すると火はすでにくすぶっており、幸い境内裏手にある「お祓い受付所」の壁面を焦がす程度で済んだ。火元はガソリンをしみ込ませたシーツを多量に詰めたアパレルチェーンの紙袋が数袋。燃えカスがいつまでも大量に舞っていた。警察は放火とみて捜査を開始した。  2年参り客があらかた帰り、逆に元旦初詣客がまだ少ない午前5時頃の犯行であった。境内は幾分穏やかであり、正面では初詣スタッフがスタンバイをしていたが、裏手になる放火現場のお祓い受付所は施錠をして誰もいない状態であった。  犯行の手段は非常に稚拙で、例えば現場となった受付所を焼き払おうというような意図が見られない。通報もすぐに入っており、あきらかに放火を「ただやった」だけのアピールにも見える。そのくせ、神社に多数の初詣客が参拝してくる元日の早朝に、わざわざ危険を冒してまで放火をしている。注目を集めるための子供じみた愉快犯の仕業ではないかと、警察は当初考えた。  そして翌1月2日の早朝に、今度は坂内大橋たもとの東屋で同様の放火事件が発生した。犯行手段は昨日と全く一緒である。大きめの紙袋に詰めた破いたシーツやTシャツにガソリンをしみ込ませ、火を点けて東屋のベンチに投げ込んでいる。こちらも濛々と黒煙を上げて木製のベンチを焦がしたものの早朝で人もおらず、大きな被害は出ていない。  警察は2つの連続放火事件の関連を追った。とはいえ安孫子神社と坂内大橋の関連が分からない。防犯カメラでの追跡を行い、犯人らしき人物は確認されたが、男性らしいという以上の手がかりがつかめていない。現状はまず2か所の関連性を中心に捜査を進めるより手が無かった。  そして多くの市民が噂をしていたように、1月3日も放火が起こる。  今度は前回の坂内大橋からは5キロも離れた県庁の駐輪場で発生した。建物裏手の駐輪場は、側道である市道に面している。市道を乗用車で乗り付け、裏手から犯行に及んだようだった。  警察は頭を抱えた。今度は県庁である。犯行は全く見境がない。メディアも大きく取り上げており、愉快犯は面白がっていると書いて記事を煽った。県警はメンツをかけて事件解明に乗り出した。放火犯は神出鬼没だが、必ず見つけ出す。市民にはテレビとラジオで市内を中心に不審火に注意するよう促した。  ところが1月4日以降放火がぴたりと止んだ。警戒をしながら見守ったが、正月3が日の事件から後は何も起こらなかった。正月気分で浮かれた連中のワルふざけではないかと世間は考え始めた。  このまま終わるのだろう、とこの時は多くの者が思っていた。
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