マンホール炎上

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 青樹刑事からの電話を切って、コイトはベッドに入った。何も考えないようにしよう、と思ったが駄目だった。こうしている間にも放火がおこなわれているかもしれない。  翌3月1日は、ほとんど一睡もできずに朝を迎えた。今日は大学もアルバイトも無い。いっそのことN市に帰ろうか、という考えももたげたが勇気がなかった。自分が密かに警察に協力をしている、というのが誰に対してではないが引け目に思っていた。今日どこかで放火が起こることはまず確定であろう。それがどういう結末になるのか。まるで自分がシナリオを作ってしまったような罪悪感にコイトは苛まれた。  携帯を見たが、まだどこからも連絡がない。ネットニュースでも放火の事件は無かった。遅い朝食をコンビニ弁当で済ませ、昼が過ぎた。気持ちの良い春めいた晴天だった。こんな日に事件が起こるのだろうか。  仕方なくベッドで布団にくるまった。そのまま悶々として日が暮れた。  どこからも連絡が来ない。ひょっとして、と飛び起きる。今日は何も起こらない。とすれば、ナオヤが躊躇したのだろうか。では犯人は本当にナオヤだったのか。  突然携帯が鳴った。母からだった。悪寒が背中を走った。 「あんた大変なことになったよ」  母の声は慌てていた。それで内容は分かった。 「北山の家の教会が放火されたんだよ」  少し間が空く。 「幸いにすぐに警察と消防が来たみたいで、火事は大したことなかったけど」  母の声が震えていた。ナオヤが逮捕された。放火の現行犯だった。コイトは言葉を失った。
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