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青樹は本部で朝刊を手にした。昨日の教会放火事件で犯人が逮捕された事件が大きく載っていた。連続放火事件はすでに全国版規模で話題性を持っていたため、扱いが大きかった。新聞では慎重に昨晩の事件を単独で扱い、連続放火事件との関連性は捜査中とした。北山ナオヤの実名もまだ公表されず、犯人Aとされていた。
一方でネットニュースでは、すでに犯人Aが連続放火犯と決めつけるような記述であった。どこで調べたのか、チューリップロードのマンホールとの関連性が丁寧な図式で示され、もし連続放火が続いていれば最後のターゲットである市文化財の「豪農の館・苅田邸」が狙われていた、ということで県会議員苅田泰次のコメントも載っていた。
青樹は約束通りコイトに電話連絡をいれ、協力への感謝を述べた。
「ナオヤはどうしてますか」
コイトは不安げに電話口で聞いてきた。
青樹は答えられる範囲で近況を伝えた。ナオヤは取り調べ中だ。現行犯なので、教会放火の罪は否定できない。ただこれまでの6件の放火との関わりについては一切黙秘を続けている。放火の動機も今のところ分からない。そこまで伝えた。コイトは礼を言って電話を切った。
コイトの怯えたような声には、自らへの罪悪感が見えた。2月にナオヤが犯行計画を間接的に自分に伝えに来た。そこで関わっている自分を、半ば共犯者のように思っているのかもしれなかった。
詳しい犯行動機やその他の放火事件との関係などの自供は、これからの取り調べにかかっている。青樹は携帯をポケットに入れ、ひとまずの解決に大きく息を吐いた。
その日は終日どのメディアも連続放火魔逮捕のニュースで賑わった。どこもチューリップロードの絵を用いた、ゲーム感覚の愉快犯による犯行であると推測していた。連続放火の犯人が逮捕されたことで、終焉を迎えたと述べていた。
しかしその夜に起こった事件が、N市を騒がせることになった。
2日夜23時過ぎ、市の中心にある城跡公園に隣接した「お城の幼稚園」の庭に大量の爆竹が投げ込まれた。激しい爆音を上げて、40センチほどのアパレルショップの紙袋に満杯に詰まっていた爆竹が破裂した。すぐに通報が入った。悪質な悪戯に思われたが県警は緊張した。
お城の幼稚園は市民には有名な幼稚園で、天守閣を模した白壁の建物だ。この幼稚園の運営法人は苅田グループに属している。またマンホールの3年2組の秋田守が描いたのがこの幼稚園だった。
この悪戯は連続放火のニュースを見た誰かが面白半分で後追いしたものだと最初は思われた。これまでのような放火ではなく爆竹なので犯行内容が違っているし、やり方も幼稚だった。
逃走したと思われる犯人の目撃者はいなかった。現場付近の防犯カメラの解析が急がれた。
しかし県警は楽観視しなかった。連続放火事件は終わっていないと判断した。明日3日のターゲットに向けた、これは予告ではないか。捜査本部は一斉に再始動した。明日は豪農の館は一般開放を中止する。今すぐ総動員で豪農の館の点検と警備に向かうように、と指示が飛んだ。
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