●至高のプリン

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●至高のプリン

その喫茶店は、市立体育館の角を左に曲がったトコロにあった。 パッと見すると、美容院と見間違えてしまいそうな、木目を生かした清廉(せいれん)な店構え。 黒板に手書きで書かれた、「ラフメイカー」という屋号。 コーヒーやスイーツなど、提供する飲食物に余程自信があるのか、一見するだけでは何が売りなのか分からないその喫茶店のドアを、私はゆっくりと押し開ける。 同時に、喫茶店に付き物のカウベルが、しんとした静謐(せいひつ)な店内の空気を打ち破るように、カランカランと鳴り響いた。 「いらっしゃいませー」 パイン材のカウンターの中にいた女店員は、金髪をかき上げながら、私の近くまで歩み寄ってくる。 「おひとり様ですか?」 「あっ……」 一切の悪意が無い、システマティックな女店員の一言。 が、その一言は私に(ほの)かな苛立ちを抱かせた。 「いえ、後でもう一人来ます」 私が答えると、金髪の女店員は慣れた足取りで私をテーブル席へと案内した。 ──おひとり様ですか、か。 テーブル席に着席すると、私は先程の女店員の一言を胸中にて反芻(はんすう)する。 言ってくれんじゃない、と思う。
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