囚われの王女と名もなき騎士 

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 彼にとって皇帝への忠誠こそが自分の全てで、それ以外のことに欠片も心を留めてはいけなかった。  お互いあまり良い印象ではないが、妙に心に引っかかるものを感じていた。  この時、ガブリエラは十歳、騎士は叙勲を受けたばかりで十六歳。  これが、王女と名前のない騎士との最初の出会いだった。  ◇◇◇  ガブリエラ・フォンタニア。  フォンタニア王国、王フェリシバ五世の王女。  上に王太子である兄のノーベル、アナスタシアとカトリーネという二人の姉がいて、ガブリエラは第三王女という立場であった。  兄と姉二人は正妃である王妃から生まれたが、ガブリエラの母は側妃だった。  母は貴族であったが身分が低かった。  王の寵愛を受けてガブリエラを授かったが、出産時に呼吸が止まり、不幸にもそのまま他界してしまった。  ガブリエラは無事生まれることができたが、死を招いた子として、王からは不吉な存在として忌み嫌われてしまった。  そんな危うい立場の王女の味方になる者などおらず、ガブリエラは物心ついた頃から粗末な部屋を与えられて、そこに閉じ込められた。  王族として最低限の教育は受けたが、部屋から外出することすら許されず、忘れられた存在として、ただ生かされてきた。  兄や姉達とは、顔を合わせたことも数えるほどしかなく、その時も会話はおろか目を合わせてもくれなかった。  そしてガブリエラが十歳になった日、ついにフォンタニア王国の王女としての行き先が決められた。  大陸に名を轟かせる大国、ゴルゴン帝国に和平のための人質として差し出されることになった。  王国を去る前夜、国王である父親に呼ばれたガブリエラは、しっかり務めを果たすようにと言い渡された。  ガブリエラは、光栄でございますと言って頭を下げた。  そう言えと言われていたものを、そのまま口にしただけだった。  野心家の王は和平など形だけのものとして、いつの日か必ず帝国に噛み付くことになるだろう。  誰もが影でそう囁いていた。  自分は政治の駒、おそらくもう二度と父に会うことはない。  ガブリエラはそう感じながら、王国を出ることになった。  こうして帝国に連れてこられたが、皇帝は小国の王女であるガブリエラに興味はなく、顔すら見ることもなかった。
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