囚われの王女と名もなき騎士 

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 その上でガブリエラは跪いた状態で待つように言われた。  民衆の声は鳴り止まない。四方から聞こえてきて、絶えず耳を揺らしてきた。  しかし、いつしか騒がしい音は遠くに聞こえて、ガブリエラは風を感じて顔を上に向けた。  ずっと大きな空が見たいと思っていた。  いつも窓から見る空は四角くて、もっと先には何があるのだろうと、よく想像していた。  今、ガブリエラの目の前に、その大きな空が広がっているのだ。  上空から流れてきた風がガブリエラの頬を揺らすと、ガブリエラの目の前に空が見えた。  竜の鱗のように連なる雲、空の高いところは深い青で低くなるにつれて水色に変わる。  アカ鳥達が空を舞い、温かい風に乗ってここよりもずっと遠くへ飛んでいく。  少年が落としたハンカチが風に舞い上がって高い空に消えていく。 「見える……見えるわ」  いつだったか、騎士が青い花畑を見せてくれたように、今もまたガブリエラの前には、ずっと見たいと思っていた大空が見えていた。  その時、コツコツと靴の音が聞こえてきた。  クセのある音を聞けば、誰が近くまで来たのかすぐに分かってしまった。 「騎士さん、来てくれたのね」 「……私だと、どうしていつも分かるのですか?」 「足音を覚えたの。不思議ね、この靴音を聞くといつもワクワクして嬉しくなった。こんな時にこんな場所で聞いても、その気持ちは変わらないのよ。今も嬉しいなんて……おかしいわね」  いよいよその時が来たのだと、ガブリエラは息を吐いて首を見せるように下を向いた。  もう、泣かないと決めたのに、涙がこぼれてきそうだった。  目隠しされているのだから、騎士には見えない。  それならいいだろうと、ガブリエラは溢れてきた涙を堪えることをやめた。  剣を待つ手が震えていた。  断頭台に立って、どうやってここまで来たのか思い出せなくなっていた。  目の前には首をさらした状態で最期を待つガブリエラがいた。  ガブリエラは足音を覚えていると言った。  思えばいつも塔に行って部屋を訪れると、ガブリエラは立ち上がってドアの前で待っていた。  いつも、いつも、いつも。  明るい笑顔で、騎士さんといって出迎えてくれた。  まだ幼いガブリエラから、大人に成長したガブリエラまで、全ての光景が騎士の頭に浮かんできた。
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