囚われの王女と名もなき騎士 

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 その時、自分が感じていた気持ちはなんだろう。  ドアに手をかける時、いつも考えていた。  早くこのドアを開けて、あの笑顔に……ガブリエラに会いたいと……。  ガブリエラが願うことは全て叶えてあげたかった。  希少な書物も、遠くに咲いている花も、渡鳥の姿も、何もかも全て。  閉じ込められていて可哀想だから?  任務で相手をしていて、気の毒だと思ったから?  違う……  違う、違う違う違う!!!  ただ、ガブリエラに喜んでもらいたかった。  微笑んで、笑って欲しかった。  どうして?  思ってはいけない感情  抱いてはいけない感情  だけど温かくて、熱くて、心から……  ガブリエラに触れたくて……  この気持ちを、同じようにガブリエラにも感じてもらいたい。 「殺せーー!」 「さっさと殺れよ!」 「腰抜けー! 魔女を殺せ」  ガブリエラの笑顔を見るだけでこんなにも温かくなる気持ちを……  この気持ちに名前をつけるなら、それは……  幸せ  騎士は自分がガブリエラといる時間が、幸せであったことに気がついた。  騎士は震える手で剣を高く掲げた。  このまま振り下ろせば全てが終わる。  自分が生きてきた不遇の時代。認めてくれた皇帝への燃えたぎるような忠誠心。  その思いに押されて、何とか剣を掲げるところまでいったが、傷だらけで血を流しているガブリエラの体を見たら全身が凍ったように動けなくなった。  あの細い体で、いつだって心配していたのは騎士のことだった。  暑くはないか、疲れていないか、寒くはないか、悩みはないか。  ガブリエラはずっと自分のことを思ってくれていたのだと、騎士はこの時になってようやく気がついた。  ガブリエラが心残りとして紙に書き記したのは、願わくば、貴方の名を呼んで愛していると伝えたかった、という言葉だった。  それを見た瞬間、雷に打たれたような衝撃を受けた。  これを書いたのはガブリエラであるはずなのに、まるで自分の気持ちがここに記されているようだった。  カランと音を立てて、手からこぼれ落ちた剣が地面に転がった。 「………めだ………俺にはできない」  何とか絞り出した掠れた声が耳に届いたのか、ガブリエラが顔を上げた。 「愛して……ガブリエラ、愛しているんだ。君に剣を落とすことなんて……できない」
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