囚われの王女と名もなき騎士 

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 大人しくさせておけと命じて、ただのフォンタニアからの人質として、城にある塔に幽閉した。  結局場所が変わっただけで、ガブリエラの生活はほとんど変わらなかった。  部屋を訪れるのは、身の回りの世話のために、自国から一緒に来たひとりの侍女と、監視と報告を兼ねて、週に一度、帝国の騎士がやってくるだけだった。  その騎士の男は、幼い頃の戦争で両親を目の前で亡くし孤児となり、孤児院で育った。  そこは劣悪な環境で、とても子供がまともに生きていけるような場所ではなかった。  国からの補助金は全て院長が懐に入れてしまい、衣食住の世話をする者もなく、狭い部屋で寝起きして、物乞いや盗みをして食い繋いでいくという生活だった。  同じように生きていた子供達は次々と死んでいき、ある日男はついに孤児院から逃げ出した。  逃げる途中、男は帝国の兵士募集の話を聞いて、帝都に向かう荷馬車に乗り込んだ。  当時は度重なる戦で、兵士の募集はどこでも行われていた。使い捨て同然の兵士の身元調査など行われるはずもなく、帝都に着くと男はすぐに平民の少年兵として仕事を与えられた。  一年中、戦場で大所帯での暮らしだったが、そこで読み書きと剣を覚えた。  他の大多数の兵士と同じように、皇帝に仕え、皇帝のために国を守るようにと、たっぷりと忠誠心を植え付けられながら育った。  年月が経ち、剣の腕が上がるとともに、めきめきと頭角を現して、敵の少隊長を次々と倒していった。  一つずつ功績が認められる度に、男の忠誠心は硬い石のようになった。  ただのボロ切れのように生きていた生活とは違い、自分は必要とされているのだと思うと、ますます皇帝のために剣となり、必要とあれば駒として散ろうと考えるようになった。  男の功績は認められて、十六歳になった時、最年少で平民騎士の位を受ける。  これは一般の兵士達の士気を高めるため、見せ物として選ばれたようなものであったが、男は歓喜し、ますます忠誠心を高めることになった。  そんな騎士になった男が初めて受けた命令が、フォンタニア王国の人質である王女の連絡係だった。  幽閉されている王女の様子を監視し、体調管理まで任せるという任務だった。  騎士は落胆した。
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