囚われの王女と名もなき騎士 

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 戦場で皇帝のために、国を守り散るのが役割だと思っていたのだが、それがなぜ敵国の王女の世話などをしなければいけないのかと、最初は苦い気持ちしかなかった。  しかもすぐに終わると思われた連絡係りの任務は一年、また一年と続いた。  騎士は所詮平民上がりで、騎士の世界では実力があっても全く認められることはなかった。  いつしか花が咲き、花が落ちて。  冬が来て春が来て。  十二年の歳月が流れていた。 「おう、マノン(名無し)。これから、王女さんのところか?」  皇宮内の騎士団宿舎の横を歩いていた騎士に、ひとりの男が声をかけた。  騎士はマントを翻しながら振り返った。  精悍な顔つきに鍛え抜かれた体に成長し、今や同じ隊の中で騎士に敵う者はいなかった。  おそらく平民騎士団の格上である皇宮騎士団の中でも、その腕は通用すると言われているが、平民騎士とわざわざ剣を合わせてくれるような連中ではない。  騎士はいつまで経っても、ただの平民騎士という立場でいっこうに出世することはなかった。  しかし、すらりと背が高く端正な顔立ちの騎士はどこにいても目立った。  街を歩けば女性達は頬を染めて、高い家門の令嬢からも熱い視線を浴びていた。 「……ロベルトか。よく分かったな」 「そりゃ、そんなに何冊も本を抱えて歩いていたら、すぐに分かるさ」 「…………」  ロベルトは同期で、同じ年に位を受けたが、年齢的には騎士より十は上だった。  明るい性格で誰とでも上手くやれる男で、騎士とは正反対の性格だったが、無愛想な騎士が唯一まともに会話をする相手だった。  それは、戦場で敵に囲まれた時に、二人で助け合って切り抜けた経験があってのことだった。  だからこそ、他の相手なら凍りつきそうな目線を送る話題でも、ロベルト相手であれば、騎士は不機嫌そうにではあるがそれなりに対応した。 「ラング子爵家の令嬢から求婚されているらしいじゃないか! さっさと跪いてキスをしろ。本物の貴族騎士になれば、そんな面倒なことやらなくてすむんだぞ」 「………結婚するつもりはない。俺は皇帝のためにいつ死ぬか分からない身だ」 「そりゃ……俺だって同じ立場だけど、結婚はいいものだぞ。子供も可愛いし」 「必要ない」
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