囚われの王女と名もなき騎士 

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 騎士は自分にも他人にも厳しい男で、一切笑うことなく淡々と職務に当たる姿から、氷の騎士とあだ名されていた。  男から見ても魅力的ではあるのだが、いかんせん愛想が悪いので、友人と呼べる人はおらず、ロベルトとの関係も一方的にロベルトが懐いているだけであった。  冷たいと称されても、どこか危うげな魅力のある騎士は、どこへ行っても女性の視線を集めるので、同僚からはますます反感を買っていた。  愛想がないのはいつもと変わらないのだが、どこか遠くを見つめるような目をしている騎士を見て、ロベルトは胸に何か引っかかったような気持ちになった。 「マノン、お前さ……。あまり王女さんには深入りするなよ。……情を移すなってことだよ。意味は分かるよな?」 「……何を言っているのか分からないな。俺が忠誠を誓ったのは皇帝だけだ。その誓いを破るのは死と同じだ」 「……そうか。俺はお前に辛くなって欲しくないだけだ。もしもの時は……いや、なんでもない」  ロベルトは苦笑して頭を振った後、宿舎の中へ戻って行った。  騎士はその後ろ姿を見ながら、小さくため息をついた。  コツコツコツ。  石の床を叩く、硬質な靴の音が聞こえてきたら、ガブリエラは本を読む手を止めて顔を上げた。  鉄で頑丈に作られたドアの鍵がガシャンと開けられる音がして、ドアは重く軋んだ音を立てながら開かれた。 「騎士さん、ごきげんよう。今日はよく晴れているわね。窓から見える空がいつもより青く見えるわ」 「はい、朝からよく晴れています。空が青いのは夏が近いからでしょう」  ガブリエラが思った通り、ドアから入ってきたのは騎士だった。  この塔に幽閉されてから十二年、まだ幼い子供だったガブリエラはすっかり大人の女性に成長し、金色の髪は長く伸びて、榛色の瞳も輝くように美しくなった。  まだ若き青年だった騎士も、立派な大人の男になっていた。  何度目の夏だろうと、時の流れを感じながら、ガブリエラは騎士を見て微笑んだ。 「まぁ、頼んでいた本ね。こんなにたくさん、マドックスの新刊もあるじゃない。嬉しいわっ、今日は寝ないで読んでしまいそう」 「睡眠はきちんと取ってください。昨日と今日の朝食を抜かれたと聞きました。ちゃんと食事も取っていただかないと……」
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