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それなのに、何一つ文句を言わない騎士に、ガブリエラは一気に心を奪われてしまった。
「必要なものはこれだけですね。食事のチェックは続けますので、ちゃんと召し上がってください。それと、明日は午前中に医師の診察がありますので、用意してください」
「ええ、分かったわ。朝は鳥の声がよく聞こえるから、すぐに目を覚ますの。寝坊することなんてないから大丈夫よ」
「ああ、アカ鳥が巣を作ったんですね」
「そうなの、今年はそこの窓枠の上に巣があるみたいなの。小鳥の声がたくさん聞こえて、親鳥は餌を運ぶのに大忙し……でも、この角度からだとよく見えなくて、どんな姿をしているのか。見られないのが残念」
ガブリエラが悲しげに笑うと、騎士は無言でその様子を見ていた。
やはり、表情は変わることなく、読み終わった本を整理して、またきますと言って部屋を出て行った。
騎士の姿が消えると、また静かで何もない日常に戻ってしまった。
塔の中には机と椅子とベッドしか置かれていない。
ガブリエラは、心を寄せる騎士に会う時も、着古して汚れが染み込んでしまった簡素なドレスしか身につけることができない自分が恥ずかしくなった。
「……好きに、なってくれるはずがないわ。私は敵国の王女であるし、こんなに薄汚くて……少しも可愛くない……これじゃ好きになんて……」
鳥の姿だけではない。
ガブリエラは鏡を見て自分の姿を確認することもできなかった。
悲しい気持ちで胸が痛くなり、本を読んで気を紛らわそうと、ガブリエラは騎士が持ってきてくれた本を手に取った。
その時、本の中からハラリと何かが出てきて床に落ちた。
「あら……これは、押し花ね」
押し花は貴族の令嬢の間で流行っているらしく、花を書物の間などに挟んで乾燥させて作ると聞いていた。
額に入れて飾ったり、栞にしたりすることもあると聞いたが、ガブリエラが手に取ったのはまさに栞のようだった。
「もしかして……これ……」
ガブリエラはその栞についている青い花を見て息を呑んだ。
そういえば前に読んだ本に、ネモフの花畑という言葉が出てきたことがあり、騎士にどんな花なのか見てみたいと言ったことがあった。
「青くて小ぶりな鈴のような花、ネモフの花畑はまるで海のように揺れて美しい……その青を見た者はみんな目を奪われて……」
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