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ガブリエラは何度も読んだので、本の内容をすっかり覚えていた。
栞になっている花は確かに小さい花だった。
しかし小さくとも目の覚めるような青色は美しかった。花がたくさん集まったところを想像して、ガブリエラは口元に手を当てた。
「見える……ネモフの花畑。見えるわ」
騎士はガブリエラが言った言葉を覚えていて、栞にして持ってきてくれたのだ。
花畑を見せることはできないけれど、せめて一本だけでもという騎士の想いが伝わってきて、ガブリエラはポロリと涙をこぼした。
「もう……好きになるしか……ないじゃない」
ガブリエラは騎士のさりげない優しさに気がついてしまった。
騎士は出会った時からずっと、冷たい目をしていて、表情が変わることはない。
けれどこんな風に、時々胸をくすぐるような優しさを見せてくる。
それに気がついてからは、ガブリエラはますます騎士のことが好きになってしまった。
ガブリエラは騎士がくれた栞を胸に抱きしめた。
ガブリエラは痛いほど分かっていた。
騎士と自分はどこまで進んでも、一本の線で、決して交わることのない相手である。
騎士がガブリエラの気持ちに気がついて、想いに応えてくれたとしても、待っているのは悲惨な運命だ。
敵国の王女に惑わされて、職務を放棄した騎士。
任務を外されるだけではすまない、騎士としての将来をつぶすことになってしまう。
押し花に騎士の温もりを感じたガブリエラは、優し包み込むように抱きしめた。
まるで騎士を抱きしめているかのように、しばらくそのまま離さなかった。
不穏な動きは、風と共に帝国に流れてきた。
「どうやら、ミタニア国が怪しい動きを見せているらしい。国境付近で小競り合いが始まったようだ」
「このままいくと戦になるな」
食堂でスープを飲んでいた騎士は、何やら物騒な情報が聞こえてきて、近くに座った貴族騎士達の話に耳を傾けた。
「ミタニアといえば水軍の戦力はあるが、陸の方は弱いだろう。もしかして援軍を頼むかもしれないぞ、確かフォンタニアの王妃の出身国のはずだ。もしフォンタニアが援軍を出したら……」
騎士はスープを口に運んでいた手を止めた。指の力が抜けて、スルリと落ちたスプーンが机の上を転がった。
フォンタニアが援軍を出したら、それは帝国に対する裏切り行為。
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