TAXI

3/3
前へ
/3ページ
次へ
「こちらでよろしいですか」  タクシーが目的地の少し手前に到着する。さいわい雨は、()んでいた。  私はタクシーを降り、舗道を少し歩いた所で裏道へと曲がった。目的の店の灯りが、遠くのほうに見えてきた。  ドクン、ドクン……  勝手に心臓が、暴れはじめていた。  店の(おもて)のガラス越し。そのカウンター席に、私は見慣れた背中を見つけた。  あぁ、懐かしい……それが最初に浮かんだ気持ちだった。そして心のなかに嬉しさが溢れ出す。  やっぱり私……すごく好きだったんだ、彼のこと。その気持ちが、一気に込み上げてきた。  瞳が(うる)み、前が見えない。目頭の奥から熱いものが、次から次へと溢れてきた。  ガンバレ、私…… 泣いちゃダメだって。お化粧が…崩れちゃうから……  よし!  笑顔で逢おう。  すでに私の(はら)は、決まっていた。 ー終ー
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加