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「こちらでよろしいですか」
タクシーが目的地の少し手前に到着する。さいわい雨は、止んでいた。
私はタクシーを降り、舗道を少し歩いた所で裏道へと曲がった。目的の店の灯りが、遠くのほうに見えてきた。
ドクン、ドクン……
勝手に心臓が、暴れはじめていた。
店の表のガラス越し。そのカウンター席に、私は見慣れた背中を見つけた。
あぁ、懐かしい……それが最初に浮かんだ気持ちだった。そして心のなかに嬉しさが溢れ出す。
やっぱり私……すごく好きだったんだ、彼のこと。その気持ちが、一気に込み上げてきた。
瞳が潤み、前が見えない。目頭の奥から熱いものが、次から次へと溢れてきた。
ガンバレ、私…… 泣いちゃダメだって。お化粧が…崩れちゃうから……
よし!
笑顔で逢おう。
すでに私の肚は、決まっていた。
ー終ー
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