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TAXIと書かれたルーフサインが、暗闇のなかに浮かんでいた。
手を挙げる。音もなくその車が近づいてきた。そして後部ドアが大きく開く。上半身だけを器用に振り向かせ、柔和な笑顔でタクシードライバーが出迎えてくれた。
「今晩は。どちらまで? 」
私は目的地を告げた。
でも……その少し手前で、タクシーを降りることにしよう。待ち合わせの店までの距離、ほんの少しでも私は歩きたかった。
それはまだ、私には、彼に逢う覚悟が出来ていなかったから……
* * *
そのきっかけは、深夜に突然届いたショートメールだった。こんな夜中に一体誰なんだ、もう。
あ……
忘れかけていた名前が、そこに表示されていた。
「キミに逢いたい。あの店で待っている」
そんな十七文字の活字が、並んでいた。
何よ、今更……
彼と別れてから、何年経つのだろう。もう二度と会わない、そう決めていたはずだった。それなのに、昔よく二人で行った店に誘われた。
どうしよう、こんな時間だし……迷っていた、ちょっと。
私、ちょっと迷っていたけれども……
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