怪人

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 待ち合わせの日、私鉄沿線の小さな駅は休日であるにも関わらずなかなか混んでいた。  でもMANOはすぐ見つかった。  向こうも同じで、どういうわけか、すぐに俺のことがわかったみたいだ。 「見~つけた」  これが初めて会うMANOの第一声だった。  俺は面食らう。 「見~つけた」って。  初対面の相手にそんなかくれんぼみたいな第一声で来るんだコイツ。  あんなアホ動画上げてるけど、意外としっかり両親にお行儀をしつけられている俺は慌てて自分の「初めまして」をひっこめる。  たしかに小慣れはしたけどメッセージはまだ7割敬語だったし、普通こういうときは「こんにちは」とか「初めまして」的な挨拶から入るもんじゃないだろうか。  でもそんなこと言って、初手からMANOにダサいイイコちゃん扱いされるのも嫌だ。  なんせ相手はピアス開いてるオシャレボーイだし。まずはこいつのノリに合わせて、「チッス」なのか「ウッス」なのか、そもそも「チ」にしろ「ウ」にしろ、どの挨拶が元になってんのかからわかんねえなって思いつつ、とりあえず「ッス」みたいなことを呟きながら、俺は軽く首をすくめて気まずい挨拶とした。  この待ち合わせ場所はMANOの指定だ。  うちの最寄り駅の前にあるドトール。  お互いちゃんと言わなかったけど、まじで俺たちはご近所さんらしい。  4月半ばのこの辺りは毎年のことながら上京してきた人たちが多くて、少しいつもと雰囲気が違う。  沿線にいくつか大学があるし、住環境も悪くないから、この辺りはひとりぐらしを始める大学生にまあまあ人気なのだ。  待ち合わせのドトールも今日はそういうフレッシュなお兄さんとお姉さんで溢れているけど、その中でもMANOは規格外に異彩を放っていた。  先に着いて席に座っていたあいつは、俺の姿を見つけるなり、前からの友達みたいにニコニコと手を振ってきた。  それだけなのにものすごく目立つのだ。  俺だけじゃなく、みんながあいつを見ている。  実をいえば、手を振られる前からすでにやばかった。  あいつが俺を見つけるより前に、俺はあいつを見つけていた。カッコイイから意識せずとも勝手に目が捉えていたのだ。  ラフに頬杖をついて片手でスマホをいじっているだけだというのに、その姿がサマになっている。そこだけ光ってるみたいな。たぶんああいうのをオーラがある、というんだと思う。
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