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カフェオレを持って俺が席に戻るなり、MANOはいじっていたスマホを脇に伏せた。
「俺、真木希っていうの」
「あ、俺は朝見快」
驚いた。
俺はインターネットで知り合った相手と実際に会うのはこれが初めてで、なんとなく本名は言わないでおくのかと思っていたのだ。
名前と顔と年齢、あとたぶん近所住みってだいぶ大事な情報をこんな気軽に明かしていいのだろうか。
俺はびびるけど、MANOこと真木希は全然気にした風もなく、「よろしく」と笑い、バンバン俺に話しかけてきた。
「動画のアイディアってどう思いつくの?」
「学校どこか聞いていい?ちなみに俺はN大附属」
「なんで怪人って名前つけたの?」
「これからどんなのやろうと思ってる?」
家で台本練ってきたのかと思うほどなめらかにMANOがしゃべる。
その間、途中で二度ほど伏せたままのスマホが鳴ったがMANOはそっちを見ようともしない。
「いいの?」
「気にしないで。怪人くんの話が聞きたいから」
そう言うので、俺もMANOにこたえる形でしゃべる。
「アイディアというか、動画のネタはなんとなく思い付き。始めたのもそんな感じだし、ゆるくやってる。学校はK高。怪人も適当に付けた。本名の朝見快から、快だけとって」
「あ、俺も一緒。本名の真木希をもじってMANO」
MANOが口を挟む。
「じゃあ今から快って呼んでいい?」
俺も希でいいよ、と言うのに俺はうなずく。
「で、快は次はどんなの撮りたいの?」
「うーん、あんま今ぱっと思いつくのはないんだけど」
「けど?」
「結構前なんだけどさ、俺、白昼夢を見たことがあって」
「何それ。まじで?」
希が笑う。
「うん。やけにリアルな夢でさ、今の撮れてたら良かったのになって思うことは何度もある。とか言って夢だし、撮れるわけないけど」
「へえ、どんな夢だったの?」
希が身を乗り出した。
その横で伏せたままのスマホがまた鳴る。
5秒くらいは鳴っていたのに、希は一瞥さえしない。
俺はカフェオレをひとくち飲む。
「学校帰りに急に空が暗くなったなって思ったらそれがバケモンの影だった。太陽の塔みたいなでっかいやつ。で、その周りを鳥が飛んでるなって思ったら人だった」
「何それ」
「だから夢だってば」
結局夢オチの話なんて聞いたっておもしろくなかったろうに。
希が笑って聞いてくれるので、俺はそのまま話し続ける。
「アイディアなんて、そういっぱい思いつくもんでもないしね。次どんなことしたら楽しいかなって考えてるとさ、その夢のことがふっと思い浮かぶんだよ。だってほんとにリアルだったんだもん。あのインパクトに比べたら自分の小ネタなんてまじでどうでもいいなって思うことはある」
また、希のスマホが鳴った。
これで四度目、もしかしたら俺がカフェオレを買いに行っている間から鳴り続けていたのかもしれない。呼び出し音は今度も長いこと続いている。
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