806人が本棚に入れています
本棚に追加
/546ページ
「直継曰く、雑誌に載ったり、ローカルやら全国やらのテレビの取材が来てたりもするらしい。」
「へぇー。有名なんだ。すごいんだねっ!」
そんなお店だったなんて考えもしなかった。
本当にすごいなぁ。
「ま、それだけ美味いってことなんだろ。」
「他のお店と食べ比べたことないけど、それでも、柳田さんのたい焼き食べた時、とっても美味しいって思ったよ。」
そんな話をしながら、一郎さんとイチローとわたし。
二人と一匹で、一郎さんが案内してくれる道をゆったりのんびりと進んで行く。
歩いて十五分くらいで、見覚えのある古民家が見えてきた。
前とは違って、お店の前には誰も並んでいない。
「ラッキー。すぐに買えそうだな。」
そう言って一郎さんは、ニッと精悍で爽やかな笑みを浮かべた。
大きな窓の前まで行くと、店内にはタオルを頭に巻いた一郎さんの同級生、柳田直継さんと、おじいさんの二人がせかせかとたい焼きを焼いている姿がはっきり見える。
寡黙そうなおじいさんに、生き生きとたい焼きを焼いている柳田さん。
そんな柳田さんがわたし達に気がついた。
「いらっしゃい。一郎とかわいい彼女さん。」
返事のかわりにペコリと小さく会釈すると、柳田さんは満足そうに笑ってくれる。
そんなわたしと柳田さんを見て、一郎さんも優しく笑った。
「直継、たい焼き二十個。」
「あいよっ!あと少しで焼き上がるから、少し待ってくれよ。」
人懐っこい笑顔をニカッと浮かべて作業へ戻った柳田さん。
「ぐぅ……。くるるる……」
犬語?
足元から甘えたようなイチローの声が……
イチローを見ると、店の窓に向って、鼻をひくつかせつつ、耳をピンと立て、きりりとお座り。
まろまゆの瞳はキラキラと輝いてて、ふわりふわりともふもふの尻尾は嬉しそうに揺れている。
最初のコメントを投稿しよう!