891人が本棚に入れています
本棚に追加
掘り返し業者とおまわりさん
青い空。
雲一つない晴天。
朝晩冷え込むようになったけど、まだまだ日中は残暑厳しい九月。
時刻は朝の十時。
何の変哲もない築五十年、平屋の日本家屋である我が家。
わたしの目の前には、車が三台くらい駐車できそうな少し広い庭。
ちょっとした高台であるため、庭からの景色は最高。
そんな景色を堪能できる開放感抜群の、一メートル程のスチールフェンス。
背丈が高くならない品種の庭木が数本、気持ち程度植えられている。
そんな庭には、深さ数センチの穴がみっつ……よっつ……いつつ……むっつ……。
今も我が家の掘り返し業者……庭で放し飼いしている柴犬のイチローが、ななつ目の穴をせっせこ掘り返していた。
「…はぁ…。」
誰がその穴を埋め立てると思ってるの?
……犬の本能。
……仕方ない。
……仕方ないけど……
「イチロー!」
怒っているわけじゃないけど、少し強い口調で作業中の掘り返し業者に声をかけた。
赤い首輪。
もふもふした茶色い毛。
くるりと巻いた尻尾。
無防備なお尻。
……くそぅ。
この掘り返し業者は、後ろ姿だけでも可愛い。
「わふっ!」
作業を中断し、こちらに視線をむけたイチロー。
まろ眉が特徴的な愛らしい顔で、キラキラした目を向けてくる。
……くそぅ。
顔を見ると可愛すぎて、庭を穴だらけにしたことを咎める気も失せてしまう。
そんな時……
「あの、呼びましたか?」
塀……スチールフェンスの向こう側から、少し低めの男の人の声がした。
「へっ?」
そちらへ目をやると……
不思議そうな顔をした大きなおまわりさん。
百八十センチはあるかな?
背も高い上に、身体つきもがっしりしてて……
……あれよ。
くまさんみたい。
チラッと見た顔は、精悍で優しそうな顔をしてる。
大きい人だけど、優しいそうな顔のせいか、不思議と威圧感は感じない。
さっぱりとした短髪と、被っているおまわりさんの帽子がよく似合っている。
最初のコメントを投稿しよう!