赤い落下傘

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赤い落下傘

220c7a30-12ea-4df8-8310-ec81bdb574f8  残酷が墜ちてきた。  それを拾った僕は自分の掌に書かれた文字を切り刻んだ。どんなに肉を裂いても「希」の文字は現れず「望」は「絶」との羈絆(ほだし)を解こうとはしない。  項垂れる僕は流れる大量の血で白いシーツを染めあげ、何枚ものハンカチの大きさに切り分け角隅に麻紐を結んだ。Rose Cecil O'Neillの産んだ赤子たちの人形に、そうやって作った血染めの落下傘を背負わせた。  それを一番高い塔に登って次々と自由な空に放った。赤子の人形の落下傘部隊は上昇気流に攫われ雲間に消えた。    そして僕は(うた)う。 貴女が預言者ならば滅びの(うた)()まないでくれ 水晶玉が推奨する事情は分かっているけれど 僕にその悪夢の分節を解説しないでくれ 潰されたあの子たちの呟きの粒は目視出来ぬ程に極微で その震えは誰の怒りさえ振るわせなかったのだろうか? 彼等は誰よりも地に足つけて生きていたのに裸足で 飢えさえ日常の課目だと寡黙に忍んでいたのに甚だしく 希と切り離された茫然とする望を饒舌な絶に舐めとられ 腑に落ちない不意に来る負に背中を押され 暴虐の地から忘却の空へと落とされるとき 光と影が持ち場を交替し重力と引力が後退し 活火山のような瓦礫の雨と一緒に大気圏へと墜落する 落下傘代わりの血染めのシーツを広げながら幼さが散っているのに 僕は浮かび上がっていく浮かばれない魂に触れることも出来ず 貴女の教授する黙示録を享受しなくてはいけないのか? 見上げる空は真っ赤な落下傘だらけじゃないか もう天上の地図には新たな星に分与する番地すらないのに 彼等が上手く着地して再び嫡子してくれるといいけれど 神聖な肉体の配給を申請している新星児たちが 涅槃の海にひしめき合って漂うことさえも出来ない 輪廻が根を上げるほどにフル回転しても 自分の死の事実も知らぬ心残の新参者には居場所もなく 広げたままの落下傘は現世の風に煽られて認識の外へ流され 忘れられた地平の向こう一面を赤く爛れた布で覆う 貴女はどこにも行けない哀しみたちにそれが運命だと諭すのか? 何も出来ない僕の口に黙って受け入れろと(くつわ)を噛ますのか?  あの日のカブールで、あの日のバグダットで、今日のキエフやマリウポリで、赤い落下傘で舞った小さき命を追悼しながら......  ......僕は高い塔から跳ぶ。落下傘も持たずに。  物言えずのまま。  きっと辿り着けるだろうと信じて願う、あの子たちの降り立つべき未来に寄り添う為に。
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