九話

1/1
前へ
/98ページ
次へ

九話

ピンポーン!ピンポーン! 玄関のベルで孝介と先輩のサコタさんは目を覚ました。 前日は夜遅くまで開店準備を行い、寮に戻ったのが午前2時、はっとビックリして起き上がる2人。そう今日は開店の日なのだ。ベルを押したのは店長のクラタさん。鍵のかかっていないドアを開けて起きたばかりの俺たちを見ると、ガハハと笑って「急いで来いよ!」とだけ言って先に支店に向かった。こんな状況でも、ガミガミ言わず、笑っていられるのはクラタさんのいいところでもあり、甘いところだ。 開店初日に寝坊した孝介とサコタさんだが、孝介は「やっちまった!」と急いで支度を始めたが、サコタさんはのんびりとしている。 「サコタさん!早く支度しないとヤバいですよ!」 「う〜ん でも寝坊するとはね〜やっちゃったねー アハハ」 なんてことをのんびりと言いながら笑っている。この人は本当にマイペースだ。準備期間でも焦るところを見たことがない。こんな人もいるんだなぁ、やっぱり今回も変わった人と住むのか…と頭の中で思いながらも何とか支度を終えて支店に向かった。 支店にはお偉いさん方がくる前に何とか着いてホッとした。お偉いさんより遅れて着いたら、開店初日から大目玉を食らうところだった。急いでのぼりを出したり、レジの準備、新店舗だからセレモニーもあるのでその準備など慌ただしくしていたら、お偉いさんも到着し開店セレモニーが始まった。 仏壇店なので最初に支店で一番高いお仏壇に向かってお経をあげる。導師は支店長のクラタさんだ。その後オーナーの挨拶、社長の挨拶、そして支店長の挨拶と続き、メンバーの紹介。最後に社歌を歌ってセレモニーは終わった。 午前10時、ついに開店。同時にお客様も入ってきた。滑り出し上々だ。孝介のこの支店での役割は営業だ。これからは外からお客様を連れて来なければならない。開店前は準備に追われてほとんど営業活動ができていなかったのでこれからが心配だった。 無事に開店初日が終わった。売上は新規開店の平均くらいだった。店舗開発の課長さんが「お祝いだ!寿司取れ!」と言い、寿司の出前をとった。ビールで乾杯してささやかな開店祝いをした。 しかし後日、いつも開店初日に経費で寿司を食べていることが本部のS常務に知られることになり、件(くだん)の課長さんは「泥棒猫みたいなことするんじゃねえ〜!」と、しこたま怒られたらしい。この課長、当時パンチパーマで威圧感もあった人。社内では「鬼の酒巻」と呼ばれている課長だったが、泥棒猫と怒られる姿を想像すると、孝介は1人心の中で笑っていた。
/98ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加